南極授業

学校行事について

「未来につなぐミッション~南極観測の世界~」

今回で15回目となる国立極地研究所の教員派遣プログラムで、第66次南極観測隊として南極を訪れている生物科の山本那由先生が1月24日、日本時間15時、昭和基地から三国丘高校へ向けてオンライン授業をされました。時差6時間、直線距離約1万4千キロを越え、「昭和基地の那由先生~!」の呼びかけからスタートしたこの授業は、三国丘高校の関係者だけでなく他校の先生も来校され、テレビ局も2社取材に来られていました。この特別授業は私たち保護者自身にも心響くキーワードがいくつもあり、日々を見つめなおす大変貴重な機会となりました。取材許可をいただいた校長先生始め、学校関係者様に心より感謝申しあげます。
それでは授業の様子、隊員の方の意気込みや生徒へのメッセージをお伝えします!
なお、これより掲載します画像および文章は「南極授業」より引用させていただきました。

🔳オープニング

「おはようございまーす。こんにちはー。」久しぶりに見る元気いっぱいの那由先生の登場に生徒からは歓声が!当日の南極の外気温は-0.5℃。日本とほぼ変わらないと思いながらも、よく考えたら南極は夏なんですよね!やや曇り空の中、遠くにうっすら「しらせ」も目視できました。まずは同じく教員派遣された北海道の福島小学校 長浦紀華校長実演による「タオルは凍るのか!?」の実験からスタート!残念ながら三国丘タオルは凍りませんでした。そして、基地内の様子を早送りで見ているかのようなコミカルな動画を追っていると、スタジオ内でスタンバイしている那由先生が画面に登場。スペシャリストの隊員の方々協力の下、南極授業の始まりです。

🔳海洋観測   真壁竜介さん(国立極地研究所 先端研究推進系)

毎年東経110度の決まった5地点で採水(流向・流速測定)とプランクトンの採集をしているそうです。緻密な変化の分析を長期間継続することは根気と努力の賜物です。そこから見えてくるものは必ずあって、地道な作業は無駄ではない。こういった話は受験を控えた生徒へも響くものがあったのではないでしょうか。海洋観測の魅力としては、海洋物理学・海洋生物学等色んな分野の人たちと共有協力して研究ができるということ。懐かしいかな、炭素循環の話も学生時代に戻ったかのようで良い刺激になりました。

🔳隊長紹介(兼夏隊長) 原田尚美さん(東京大学 大気海洋研究所)

原田隊長は何と南極観測隊初の女性隊長!南極観測第33次夏隊で初めて南極を訪れられ、60次隊では女性初の副隊長(兼夏隊長)に。夢と情熱にあふれたカッコイイリーダー、原田隊長は多くの人の憧れですね。

🔳南極の空 気象隊員の仕事  臼田拓人さん(気象庁 大気海洋部)

日本では見ることができない気象現象が南極では観察できます。白夜・蜃気楼・地吹雪・ブリザード・細氷・多色オーロラ。美しさのあまり「おお~」という声も。南極では日射放射量の測定やオゾン層の観測をされているそうです。南極の空にはオゾンホールができるため紫外線が多く、日焼け止めは必須。那由先生もしっかりケアされていました。越冬を控える臼田隊員の意気込みには、仕事に対する熱意が感じられました。

🔳アデリーペンギン研究  髙𣘺晃周さん(国立極地研究所 先端研究推進系)

ペンギンの体にカメラや記録計を取り付け、行動や生態を調査するバイオロギングという手法で研究をされています。まだまだ未知なことが多いペンギンの生態ですが、その変化が環境の変化にも関連しているそうです。カワイイだけじゃない、不思議がいっぱいペンギン研究の魅力に未来が見えた生徒もいたのでは?ヒナの体重測定には那由先生も協力されていました。ペンギンの動画は沢山撮られたそうで、帰国後の授業も楽しみですね。

🔳南極の魚研究    浅井咲樹さん(東京海洋大学 学術研究院)

南極の海水温は-1℃。外気温とほとんど変わらない事に驚きでした。ショウワギス・ウロコギス・ヒレトゲギス・・・聞きなれない魚たちが生息し、水中ドローンや超音波を使って観察しているそうです。マイナス世界で生きる魚は「不凍タンパク質」を保有しており、これが体液を覆うため魚は凍らない。環境に適応するため獲得された特質なんですね。ショウワギスは那由先生も食されたそうで、どんな味がしたのかとても興味があります。

🔳質コーナー

南極の皆さんに向けて、3人の生徒が質問しました。
専門的な内容の質問に驚きましたが、研究者の方も丁寧に説明してくださり、またひとつ「南極への扉」が開かれたように感じました。

最初の質問は海の魚についての質問です。

生徒
生徒

南極に生息する魚の中でもっともユニークな魚は、どのような魚ですか?

今の質問はとてもいい質問です。

いろいろなユニークな魚がいますが、コオリウオという魚は、血液が透明になっています。南極特有の低温でも生きているという点でも、かなりユニークな魚です。

浅井さん
浅井さん

次の質問は、海での炭素循環についてです。

これは、南極の「海洋観測」のところでお話があった、

「人間が排出している二酸化炭素の30%は海が吸収している。

海では、小さいプランクトン(植物性プランクトン)が空気中の炭素を吸収し、それを大きいプランクトン(動物性プランクトン)が食べ、死ぬとまた炭素が空気中に戻るという循環を繰り返している。

この流れの中で、大きいプラクトンは死ぬときに約10%が海中に沈むので、その分の炭素は空中に戻らず、海中に固定されるという効果がある(そのため、空気中に戻る炭素量を減らすことができる)。

ただ、長年にわたる継続した南極での海洋観測により、近年は大きいプランクトンではなく小さいプランクトンが増えていることがわかってきた。

大きいプランクトンが減ると、海中に固定される炭素量が減るため、結果的に空気中の炭素が増えて地球温暖化が進む可能性がある」

というお話を踏まえての質問です。

生徒
生徒

大きいプランクトンの個体数を増やすことができたら地球温暖化の解決にもつながると思うのですが、そういった研究は行われていますか?

自然が大きすぎるので、人間が手をくわえて増やすということは現実的ではないですが、大きいプランクトンが多いところでは、効率良く生物ポンプ(海洋の生物によって、炭素が海洋内部へ運ばれ、蓄えられる働きのこと)が深海に固定しています。

(大きいプランクトンの死骸が)海底に積もって、それが最終的に化石になって石油みたいになっていくわけですね。そうなると何億年もその炭素は隔離されるわけです。(空気中に出ていかない)

その手前が海洋大循環と言って1,000年ちょっとぐらいで地球を巡るゆっくりな流れがあるんですけど、それに乗ると1,000年ぐらい表面に出てこない炭素ということになります。

難しいのは動物プランクトンは媒介しているだけで大きいのが増えても生産力そのものが上がってこないと根本解決しないということです。

~中略~

人工的に植物を増やして燃料を取ろうという働き(バイオ燃料)がアメリカなどで盛んに行われていて、そちらの方が(地球温暖化の解決としては)現実的です。

(地球温暖化の問題については)陸でコントロールしないと難しいですね。海は広すぎる、というのが答えになると思います。

真壁さん
真壁さん

最後は、気象観測を行っている臼田さんへの質問です。

生徒
生徒

どういったきっかけで気象観測の世界に入ろうと思ったのでしょうか。

私が気象に興味を持ったきっかけは、小学校ぐらいの時からいつも空を見たり雲を見たりするのが好きだったことです。

また、大雪だったり地元で起きた大雨や災害などを経験した結果、気象に興味を持つようになりました。南極でも、南極ならではのブリザードだったりオーロラだったり、いろんな気象現象がでるので楽しみにしています。

臼田さん
臼田さん

🔳那由先生から授業のまとめ

授業を終えた那由先生から、”分からないことを分からないまま放置するのではなく、自ら新しい世界に飛び込むことが大切だ”ということと、”ひとりでは分からない事もたくさんの人が続けていくことで、分からないことを分かるに変えることができる”ということを伝えてくださいました。生徒とも一緒にたくさんのチャレンジをして、世界を知っていこうという那由先生の思いが「共に世界を知ろう」というメッセージに込められています。

生徒の感想

生物や気象について関心はあまりなかったけれど、素敵なオーロラの映像やペンギンの様子に感動です。

ペンギンの生態を探るのに興味を持ちました。

オーロラすごいです。貴重な映像がみれました!

南極の魚の生態の様子を知ることができてよかった!

授業を終えた生徒の皆さんは、「楽しかったです!」と興奮冷めやらぬ様子でたくさんの感想を話してくれました。南極授業のテレビ取材に答える生徒の姿もありました。

参加した広報交流委員の感想

PTAから広報取材として南極授業に参加しました。授業を受けて感じたことがたくさんありました。ぜひ皆様も、南極授業についてお子様と話す機会を持たれてみてはいかがでしょうか。

それぞれの研究者の方が生徒へ向けたメッセージを沢山おっしゃっていて、心に響きました。
親である私たちにも頷ける心の学びもあり、気持ちが前向きになりました!

「元々好きで1人で始めた事だったけど、誰かのためになると思うとモチベがあがる」
「すぐに答えがでるものではなくて長い時間の積み重ねが大事、横のつながりも大事」
「人との出会いを大切に」などなど

普段はあまり話さない息子が、とても面白かったと饒舌に話してくれました。
オーロラやブリザード等の気候の動画に興味を持ったようです。

さまざまな研究報告など内容盛りだくさんの1時間、那由先生も足りなかったのではないかと感じるほどでした。

身近に接している先生という立場の方が、夢を実現する現場に居合わせていることの奇跡を忘れないでほしいです。

校長ブログもぜひご覧ください。
昭和基地から「おはよう!」南極からオンライン授業!この瞬間は一生忘れない

「南極からの授業」を終えた那由先生からの「南極通信 第6号」が届きました。
南極授業の現場での裏話や、生徒からの質問にたくさん答えてくださっています。